キャリアトランジション対談・チームJAPAN編(1) -1

トップアスリート同士、競技の枠を超えて、
自身のこれからの“キャリア”について語り合ってもらおうというシリーズ。


第一回は、共に2度目のオリンピック出場&金メダルをめざしている
柔道の塚田真希さんとソフトボールの上野由岐子さん。
「いつかお会いして、お話してみたかった方です」と互いに対談を熱望していた2人。
当日はさまざまな話題で盛り上がり、予定時間を大幅に超過!?
今日はその中から、“キャリア”についてのお話を中心にご紹介します。


080314_05.jpg


集団の中での、個人の気持ちのあり方

line.gif


上野さんが「柔道の塚田選手に、ぜひお話を聞かせていただきたい」と熱望されたことから、対談が実現することとなりました。


上野

お忙しい中、今日はお時間をつくってくださり、ありがとうございます。お会いできてとてもうれしいです。私はソフトボール選手なので、今まではチームスポーツの選手のインタビュー記事などに興味を持って、よく読んでいたのですが、最近ではピッチャーとして自分がやらなくてはという意識がより強くなったためか、柔道とか、水泳とか、自分ひとりでプレッシャーを全部背負わなくてはならない、自分が強くないと勝てないという、個人競技のトップ選手の方にいろいろ聞いてみたいと思うようになりました。“集団の中での自分のあり方“というところなど、ぜひお聞きしたいです。


塚田

以前からもちろん、上野さんのことは知っていました。私もお話してみたいと思っていたので、今回こうした機会をつくっていただけたことをとても楽しみにしてきました。よろしくお願いします。


上野

練習のときは、柔道の選手はそれぞれのペース重視で、あまり周囲の選手のことなど気にしないで練習されるものなんですか?ソフトボールはみんなで練習することが多いので、常に“周囲に迷惑をかけちゃいけない” “周りがいる中に自分がいる“みたいな考えで行動していることが多いのですが…。


塚田

柔道は、勝てば自分だし、負けても自分じゃないですか。やっぱり全部自分の責任だから、練習のときから、自分のことだけに集中しているというのはあると思います。柔道のこととなると、ストイックで自分のことしか頭にないように見える個性的な選手が、特に代表クラスには、少なくないかもしれません。オリンピックに行くときなどは、柔道も出場選手や関係者がまとまって選手村などに入りますから、もちろん団体行動もしますけど、現地での練習は、まったくそれぞれのペースでやっています。みんなが練習していても、片隅でガーッてやって今日はもう上がりますっていう選手もいれば、今日はオフ入れますっていう選手もいる。バラバラなので、寂しいなと思うこともありますが、反面、楽といえば楽ですね。とはいえ、柔道も一人じゃできません。打ち込みや投げ込み全部を受けてくれる相手がいての自分ですから。負けたときは、全部自分の責任なんですけど、勝ったときは、自分ひとりの力じゃなかったなっていうのは、すごく感じるときがあります。


上野

オリンピックなどで、現地の選手村などで団体生活をしている中で、周囲の選手と自分の関係というのは、どんな距離感というか、どんな感じなんですか?


塚田

080314_07.jpg柔道は7日間に渡って毎日、階級ごとに試合があるんですよ。だから早く試合が終わる選手もいれば、私の階級みたいに最終日までみんなの結果を見ながら待たなくてはいけない選手もいます。オリンピックに出るまでには、それぞれの選手がたくさんの合宿に参加して、ハードな練習を乗り越えて、海外遠征に何度も出かけたり、プレッシャーがものすごくかかる試合をいくつも戦ってきて、それでやっと代表になれて、オリンピックを迎えるんです。なのでオリンピックの試合が終わったときの開放感ていうのは、そこにいるメンバーにしかわからないというか、そこにいるメンバーならみんなわかっているというか。一人ひとりが試合を終えて、次々と開放感にひたっているんですけど、試合の残っている私だけがまだ張り詰めてて。で、最終日に私が選手村を出て試合会場に向かうというときに、「頑張るんだよー」って、大きな声が聞こえてきたんですよ。振り返ると、宿舎のバルコニーから女子の代表選手6人全員がそろって、手を振ってくれていて。それまで自分のことで精一杯というか、いつもは個性が強くて、バラバラだった選手たちが、ひとつになって自分を応援してくれていました。あの瞬間はなんか、こう、ものすごく感動したというか、私といっしょにいたコーチの先生方も、「なんだか、じーんときちゃったよ」って、みなさんおっしゃってましたね。


オリンピックの決勝の最後の最後で、私がああいう風にラッキーなものをつかめたのも、そういうメンバーたちといっしょにすごしてきたからこそ、何かが後押ししてくれたのだと思いました。


柔道は勝てば勝つほど孤独になっていくというところがあるのですが、そういう孤独の中で見つけた、人と人との温かいものというか、そういうものを感じられるようになって。国際試合に出たりして注目されるようになると、改めて、協力してくれる人たちのありがたみを強く感じるようになってきたようにも思います。自己中心的にふるまっていながら、人と接しているときは強い感謝の気持ちがあるというか。うまくいえないんですけど。


上野

集団の中で過ごしていると、中には減量などで、イライラしている選手もいるんですか。


塚田

そうですね。でも強い選手ほど“減量も自分の責任だ”ってわかってますから、人前でそういう気持ちは見せないですね。人のせいにしたり、「私の前では食べないでね」とか言わない。階級や人にもよると思うんですけどね。


ところで、上野さんはトレーニングとかどうなんですか? エースピッチャーというと、すでに人よりズバ抜けているものを持っているとは思うんですが、それでも人と同じメニューをいつもやっているんですか?


上野

そうですね。チーム練習のときは、みんなでは同じメニューをやるんですよ。でも、個人練習の時間があるんで。今は本当に24時間ソフトボールをやっています。寝てるときと食べるとき以外は、とにかく自分もみんなに負けたくないから、上手くなるためにやるっていうのもあるし、負けたくないからやる。だからこう、ズバ抜けたいからっていう感じじゃなくて、みんなと同じ練習の中でも、絶対負けない、みたいな。その辺はもうみんな、野手とかピッチャーとかキャッチャーとか関係なく、チームメイトみんなでどこか楽しみながら必死に競争してるんですよ。例えば誰かがものすごい重さのバーベルを上げたら、「まじ?!」「すごーーい!!」と驚いてみせながら、内心、「自分も絶対あげてやる」みたいな感じでメラメラと(笑)。


後輩とトレーニングするときは、先輩として下の子には負けられないって思うので、「ついて来いよ」、みたいな感覚でやってます。先輩とやるときは、先輩が 2回やったら自分は3回やるみたいな。絶対早く先輩に追いつくみたいな感じで、ずっとやってきましたね。本音を言えば、私は下の子を自分が引っ張っているときより、先輩という存在をよじ登る方が好きだから、先輩相手に「絶対負けない!」って思ってるほうが、力がいっぱい出るタイプなんです。なので、下の子からどんどん追われると、どんどんやらなきゃいけないと思って、知らず知らずに自分を追い込みすぎてしまうところがあります。2006年のシーズンはやりすぎて、「休むことも練習の一つなんだから、そういうのも覚えろ」って言われるぐらいまで追い込んでしまって…。


塚田

上野さんはソフトボール界において、きっと“柔道界の谷亮子さんみたいな存在”なんですよね。谷さんもその存在感の大きさで周囲の選手を引っ張ってくださったり、それでいて、周りへの心配りがすごくて、上野さんとかぶるところがあるんですよ。でも柔道はまだ、個人的な行動もとりやすいですけど、ソフトボールは団体競技ですから。上野さんの話を聞いていて、確かに団体の中で、自分というものをどうするか、たいへんそうだなって思いました。


集団の中での、個人の気持ちのあり方

line.gif


北京オリンピック以降の、ご自身のキャリアについてはどう考えていらっしゃいますか?


上野

昔は中学校の先生になって、ソフトボールの楽しさを生徒に教えたいという思いが強かったんですけど、正直、今は、ほかにもやりたいことが出てきて葛藤してます。高校を卒業するときは、中学の教員免許を取りたかったので、大学に行くか、実業団に行くか、すごく迷ったんですけど、結局、実業団にそのまま進む道を選びました。ですから私は教員免許を持っていないので、中学で教えるとしたら、免許をとるための勉強をしなくてはならなくて、今となっては何かと難しいことが多いと思うんですけど。


塚田

中学の先生ですか。上野さんが先生だったらいいですねぇ。


上野

080314_06.jpg自分の中で、実業団とか高校の指導者は、ちょっと私のやりたいこととは違うように思っていたんですよ。実業団や高校で教える以上は、チームを勝たせなきゃいけないじゃないですか。でも私が今日までずっとソフトボールをやってこれたのは、中学校のときのソフトボールがすごく楽しかったからなんです。楽しいから夢中になってソフトボールをやって、そこにオリンピックという目標が来て、「じゃあ、自分は絶対ソフトボールでオリンピックに出てやる」って思って。中学のときは、ピッチャーだけでなく、先生がショートもやらせてくれて、それがまたうれしくて、楽しかった。


自分が指導者になったら中学生たちには、「スキルアップっていうのはね、うまくなりたいからとか、ソフトボールが楽しいからとか、何々ちゃんに負けたくないからっていう、そういう気持ちから、生まれてくるものなんだよ」って、伝えたくて。で、ソフトボールが楽しいから、高校でもやりたい!って。もっとうまくなりたいから続けるんだ!って。なんか子供たちのそういう気持ちに触れていたいというのはあります。なので、指導するなら絶対中学生!って思っていたんですけど。今日まで7年間、いろんな方のお世話になって、バックアップしていただいて。そういう方々に、何か恩返しではないですけど、面倒を見てくださった方々に自分が少しでも貢献できることがあればという気持ちも、今はあります。


正直な話、ソフトボールでこんなに自分が有名になるなんて、思ってなかったんですよ。有名になるためにやってきたわけではないし、ただ上手くなりたい、っていう一心で、やってきただけで。もともと性格的にもあまり目立つのが好きじゃなかったんですね。小学校とか中学校でも学級委員とか絶対やらないし、クラスの発表とかでも絶対手を挙げないような子供だったんですよ。だけどピッチャーっていうポジションをもらって、まぁ自分からやりたいって言ったんですけど、ソフトボールをやっているときの自分と、ふだんの自分は全然違うって感じで。そんなふうにやってきて、今はいろんな方から注目していただけるようになって、ありがたいなぁと感謝する反面、ソフトボールに関わっているときはずっと“有名な上野”みたいな見られ方をしてしまうのかなって。指導者になったとき、“あの上野が来たら、うちのチームも強くしてもらえるだろう”って、そんなイメージだけで見られるのはちょっと、っていうのはあります。


塚田

上野さんは、ソフトボールに関係ない仕事とか、考えたことはありますか?


上野

はい。関係ないほうが先入観とかもたれなくていいかなと。医療関係とか栄養関係にかなり興味を持っているので、競技にも役立つこともあって自分なりに勉強してきたこともあって、結構詳しくなりました。例えば調理師さんだったりとか栄養士さんだったりとか。仕事にしたいと考えることもあります。薬関係はかなり学力が要るので難しいかなぁとも思うんですが、医療、栄養に進むのも面白いよな、って。“ソフトボールの上野”というのと無関係なところで働きたいという願望もあります。中学校の指導者、お世話になったところに何か貢献したい、ソフトボールと無関係の仕事。そんな選択肢の中で揺れたり、葛藤していますが、究極の望みは玉の輿結婚だったりして(笑)。手相、信じてますから(笑)。


塚田

やりたいことって、なかなかひとつに絞れないですよね。上野さんは実業団に入る前から引退後のことも考えていたようですけど、私は今までは、キャリアについて何か考えておかなくてはいけないんだろうなと思いながら、目の前のことに必死で、なかなか気持ちの整理がつかなかったんです。でも最近は、一戦、一戦が終わりに向かっているというか、「これが最後だ」と試合に賭ける気持ちが強くなっていて、だからこそ、それと同時に、柔道を終えた後のことを以前よりリアルに考えるようになってきているようにも感じています。今日、こういう場で先々のことを話してみたりすることで、自分が興味があること、いいなぁって思っていることを、少しずつでも絞っていけたらいいのですが。


上野

塚田さんもやりたいことがたくさんあるのですか?


塚田

方向というか、はっきりしていることは、ひとつだけあるんです。 “柔道やスポーツに携わって生きていきたい”ということです。昔は、正直、柔道から離れてまったく違うスタートをしてみたいと考えている時期もあったんですけど、最近は自分が柔道でここまでくることができたという意味で、私が今あるのも、柔道やスポーツに関わっているすばらしい人たちに出会えたからだというのがあって。本当にいい人が多いんですよ、というか、もう本当に大好きな人たちが柔道やスポーツ関係の人たちにはたくさんいて。やっぱり自分もそういう人たちの中で、生きていきたいという気持ちが強くなってきたというのはあります。何がしたいとか、どんな仕事に就きたいかっていうのは、まだはっきりしていないんですけど、こういう人たちと働けたらなぁとか、スポーツの明るさみたいなものが、自分やたくさんの人の生活の中になじんでいたらいいな、みたいなイメージはあります。柔道の指導者になると決めているわけではないですが、スポーツのいい面というものを子供たちやたくさんの人に伝えたいというか。スポーツジムでも道場でも、いろんな人にスポーツの良さを感じてもらえる仕事もいいなぁと思いますね。


上野

指導者になるとしたら、どんな人たちを教えたいですか?


塚田

大学生に興味があります。自分が今も、母校の東海大学で練習をしているからというのもあるんですけど。大学生と接していて、大学生ならではの面白さを感じているというか。大学生の指導をされている方々を見ていると、とても若々しい方が多くて、あんなふうに大学生たちと関わりながら、素敵に年をとっていけたらなって。なんかうまく言えないんですけど、身近な方々に自分のこれからを重ねて見ているようなところもあります。女性の先輩方が、道のないところにどんどん道を切り拓いてくださっていて、ありがたいな、自分もそんなふうに後輩たちのために何かできたらいいなと思ったり。いずれにしても、大学や、高校も視野に入れて、これからも柔道に関わっていきたいという思いはあります。


>> 次へ >>