現役時代にやっておくべきこと(5) 安藤 美佐子さん【1】

自分を育ててくれたソフトボールに、
新しいチームを立ち上げることで、
何か恩返しがしたかった


ando1.jpg突然の解雇通告だった。2004年11月の日本女子ソフトボールリーグ最終戦を終えたとき、安藤さんは自分の中にまだ燃えるものを感じ、現役続行を決意していた。33歳。体力の衰えはトレーニングと技術で補える。進化していく自分をイメージできた。


だが、所属企業からは契約の打ち切りを告げられた。安藤さんは正社員ではなく、ソフトボール専業の契約社員。「結果が出せなかったらあたりまえのことです」。チームは1部リーグの上位進出を逃し続けてきた。


1日だけ、悩み抜いたという。今さらどのチームに移籍するというのか。「もう現役は終わりになっちゃうのかな」。引退という言葉を噛み締めた。だが、すぐに「どこかで続けられないか」という声が自分の中で大きくなっていくのを感じた。このままソフトボールを辞めることはできない。安藤さんはお世話になった人、こんなときに力を貸してくれそうな人たちに、電話をかけ始めた。

 

湘南ベルマーレの社長に
思いのたけをぶつけた手紙を送る


他の実業団チームへの移籍。アメリカのプロリーグへの挑戦。考えられる進路をピックアップしてみた。人と話をしているうちに、自分の曖昧だった思いが具体化していく。

「新しいことをやりたい。既存のチームではなく、自分で新しいチームを0から立ち上げて、そのことで何かソフトボール界に役に立てないかなぁと思ったんです」


Jリーグのクラブにチームをつくってもらえないだろうかと思いついたのは、すでにいくつかのクラブが、サッカー以外の競技を運営していると聞いたからだ。ソフトボールチームはまだどのクラブにもなかった。


「湘南ベルマーレに頼みに行こうと決めたのは、紹介してくださる方がいたのと、漠然と"湘南"という響きが明るくていいなと思ったから。私は岐阜生まれなんで、"湘南"という土地には縁はなかったんですけどね。ベルマーレってどんなチームなんだろうと、インターネットで調べたら、すでにビーチバレーやトライアスロンチームがあり、総合型クラブに対する経営者の思いや理念が載っていました。それを読んだ瞬間、ここだ!と思いました。このチームに自分の正直な気持ちを全部ぶつけて、新しい挑戦に賛同してもらおうと。すぐに社長さんに手紙を書きました。安藤がどんな人間かを知ってもらうために、ソフトボールを始めてから今日まで、自分がどんな思いでプレーしてきたか。ソフトボールという競技は何が魅力なのかを吐き出してみました。たとえば、ホームから1塁までが野球より短い、ソフトボールのショートという守備の醍醐味は、左の俊足バッターとの一騎打ちにあるんですよ。深めのちょっと処理の難しいショートゴロを捕って1塁に投げたとき、守備が勝つのか、打者の足が勝つのか。3秒以内の攻防。攻撃的な守備なんです。

 
解雇されてからそれまでに考えたことも本音で書きました。今までの自分がいかに企業に守られ、恵まれた環境でプレーさせてもらっていたのか、実はまったくわかっていなかったこと。廃部や解雇によってプレー続行の足場をさらわれる、日本の実業団主体の競技活動が、選手にとってどれだけ不安定なものなのかということ。だから、新しいチームでは選手一人ひとりが仕事を持ち、ソフトボールを通して地域に何かを貢献することで、地域の人たちに応援してもらえるような自立したチームをつくりたいとお願いしました。


ソフトボールチームが1年間でどのくらい経費がかかるかを、行動を共にしてきた組島千登美監督と試算してみたときは驚きました。日本リーグの1部では、22試合を戦うために遠征先に宿泊するのですが、宿泊費、食費などをメンバーの数でかけると、経費がかなりの額になってしまうんです。会社を休んで試合の数日前から試合が行なわれる会場付近に宿泊したり、合宿に出かけたり。ぜいたくをしていたつもりはなかったのに、実際にこんなにかかっていたのかと、愕然としました。


思いのたけを手紙に書いたり、チームの立ち上げに必要な経費について計算してみたことで、これまでの自分を棚卸ししたような気持ちにもなりました。自分にとってソフトボールとは何なのか。それまでどれだけ企業に依存していたのか。じっくり考え、それを第三者に向けて書いてみたことが、新しいことを始めるにあたって、ものすごく意味のあることになったと思います」


next.gif