現役時代にやっておくべきこと(5) 安藤 美佐子さん【2】

初めてのアルバイト
自分たちで家探し

 

元のチームの選手が4人、いっしょに新しいことを始めたいと言ってきてくれたときはうれしかったという。だが、明らかに待遇面での条件は悪くなる。給与も下がるし、保証もない。働いてからの夕方練習では時間も制限される。試合の翌日も勤めを休めない。遠征費もままならず、1年めはリーグにも参加できない。スカウトは圧倒的不利だし、よほどの覚悟がなければ続かないだろう。だが湘南ベルマーレから、「ぜひいっしょにやりましょう」という返事をもらったとき、4人は即座に退部届けを出した。


安藤さんは新チームの活動が始まるまでに、生まれて初めてアルバイトをしてみようと決心した。運送会社の配送の仕事を選んだのは時間の融通がきくから。毎朝4時に起きて車で配送所に向かった。職場の人たちは皆、気さくで、楽しかった。額に汗して働き、昼前に上がって午後は公園でトレーニングをした。「新しいことをやる前に、何か始めてみたかった。眠かったですけど、これからはこうして働いたあとで、工夫しながら練習するんだって、自分に気合いを入れました」


yokatta.gif湘南地区の中でも厚木市を本拠地として、活動して行くことが決まった。昔からソフトボールが盛んで、球場も多数あるという厚木市。安藤さんは早速メンバーといっしょに市内の賃貸マンションめぐりを開始。そんな普通のことも初めてだった。スカウトを進めながら、同時に市内の中学校のグラウンドを借りて、公開トライアウトを実施した。寒い中、熱い気持ちの選手が全国から集まり、3名合格。初年度はギリギリの10人でスタートすることになった。新生チームが始動した。


地域密着型クラブチームの誕生
新しい自分になろうと皆で決意


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10人のうち8人は、元実業団選手だった。いったん引退した者、チームが廃部となってクラブチームでプレーしていた者など経歴は様々。ただ、それぞれが新しいチームの考え方を新鮮に感じていた。「まずみんなの心にあるのは、"感謝の気持ち"でした。縁もゆかりもない私たちをベルマーレのスタッフも、厚木市の人たちも心から歓迎してくださって、応援してくれたんです。自分たちのチームが使っている練習場を貸してくださったり、湘南ベルマーレの試合には手作りのお惣菜やいなりずしを差し入れてくださったり。メディアの方にもニュースとしてたくさん取り上げていただきました」

選手は地元企業に9時から15時まで勤めて、夕方にグラウンドに集合。安藤さんは造園会社に勤めることに。制服を着てパソコンと向き合う。練習は短期集中。毎日が新鮮だった。

「今日まで3つの実業団チームを経験してきました。私は言いたいことははっきりと言うので、人ととぶつかることも少なくなかったけど、いつも自分の芯でぶつかり、ウソはなかった。新チームでも、職場でも、つきあうなら腹の芯でつきあいたいと思いました。全力で向き合いたいと。ただ、チームではあまり細かいことを言うのはやめました。メンバーには高い意識を持って、自分で考えて行動してほしいから。門限とか、生活面での細かいルールもナシ。実業団チームと違って会社が自分たちを養い、守ってくれるわけじゃない。守るのも律するのも、自分自身なんです」

実業団にいたころのような環境は用意されてはいない。その代わり、自分たちを支えてくださる地域の方や遠くから駆けつけても応援してくれる人たちがいる。


yatteokeba.gif「メンバーたちには、その方たちに感謝して、その方たちの思いに報いようと。自分たちから発信しようよと。それだけは言い続けています。人前であいさつするときは、堂々と大きな声で自分の言葉で話ができること。マイクやカメラを向けられても、ためらわずに応対すること。チームを代表するのは自分という自覚を持つこと。プレー以外のことも仕事なのだということや礼儀や気配りについては繰り返し伝えています。でも"こうしたい"がメンバーから出てくるまでは、自分の考えをすぐにぶつけることを待つようになりました。前はすぐに答えを示して、一人で怒っていたけれど、自分自身も変わりました。発見だらけの毎日ですよ」


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